【後編】利益と社会貢献は両立する。「幸せ」を追求して見つけた「会社のあり方」創業者・剣持さんインタビュー

キャリア

前編では、インターネット夜明け前の起業と、創業期の壁を泥臭く乗り越えたエピソードをお届けしました。

いよいよ後編では、現在のメンバーズの根幹である「CSV(※1)経営」や、社員が主役となる「全員参加型経営」が生まれた背景に迫ります。念願の上場を果たしたものの、いつの間にか「利益至上主義」に走った結果、倒産危機を招いてしまい、自信を失った剣持さん。

そんな姿を見かねた社員たちが自発的に会社再建プロジェクトを立ち上げ、熱海合宿で「社員の幸せ」を軸に再建しようと誓い合います。その決意を胸に剣持さんがパソコンで「幸せ」と検索したこと、そして震災復興をかけた「仙台オフィスの立ち上げ」を経て、会社の運命は大きく反転することになります。リアルなビジネスの挫折から見つけ出した、骨太な哲学をひもときます! 

※1 CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造):社会課題の解決(社会価値)と企業の利益(経済的価値)を両立させる経営・事業戦略。単なる社会貢献やコストではなく、本業を通じて社会ニーズに応えることで企業の持続的な成長を目指す考え方。

剣持 忠(けんもち ただし)
1990年、早稲田大学卒業後、日本合同ファイナンス(現 ジャフコ グループ)に入社。1995年、株式会社メンバーズを設立。2006年、名古屋証券取引所セントレックス市場上場。2016年4月、東京証券取引所市場第二部上場。2017年4月、東京証券取引所市場第一部指定。2023年4月、株式会社メンバーズ 代表取締役 兼 会長執行役員。2026年4月、同社 取締役(現任)。 

▼剣持さんのキャリア&メンバーズ成長の軌跡(年表)

第4章:利益至上主義からの脱却と、復興支援を通じた「社会貢献の証明」

創業時に一度、壁を乗り越えましたが、その後も大きな試練があったそうですね。 

創業期の資金難も大変でしたが、本当の試練は新興市場(※2)に上場した後に訪れた「2度目の倒産危機」でした。

上場企業の社長になった私は初心を忘れ、「株価」や「利益」ばかりを追うようになっていました。経営が立ち行かなくなり、社長を辞めようとすら考えていたそのとき、社員たちが会社の再建プロジェクト(通称:プロジェクトX)を立ち上げたのです。

熱海合宿で夜な夜な話し合ったのは、経営の数字ではなく「人生観」についてでした。そこで彼らから突きつけられたのは、痛烈な言葉の数々です。「剣持さん、たまに『売上1,000億円やりたい』とか言ってたけど、あんなのはっきり言って社員の心には響かないよね」。売上は、私にとっては「成功の証」のつもりでした。ですが、社員からすれば自分に関係のない話で、ピンとこないのは当たり前だったのです。さらに、「そんなことも気づいていないんですか。剣持さんって、マジで社員のことをどう考えているんですか?本当は社員の幸せなんか考えていないでしょ?」とまで言われました。

私は、対等なパートナーであってほしいという想いを込めて「メンバーズ(参加者)」と名付けたはずなのに、いつの間にか社員たちを、数字を達成するための「手段」としてしか捉えていなかったのです。 「経営者と従業員」というビジネスライクな関係に成り下がっていたのは、ほかでもない、私が彼らの「人生」とまっすぐに向き合っていなかったからです。

※2新興市場(しんこうしじょう):成長性の高いベンチャー企業や中堅企業が上場する株式市場の総称。

そこからどうやって経営の軸を立て直したのでしょうか? 

熱海合宿では、リストラという選択肢も挙がりました。「社員を半分ぐらい解雇するしか生き残れないのではないか」という選択を迫られていたのです。でも、「誰のために経営することになるのか」という話になって、「リストラなんて、社員の幸せを置いてきぼりにするような施策はやめよう」「どうせ立て直すんだったら、社会に貢献する会社として立て直そう」という話になりました。具体論はなかったけれど、「社員の幸せを軸に再建しよう」と、そこだけ決めましたね。

東京に戻ってきて、オフィスのパソコンの前に座り、「マジで社員の幸せを考えよう」と決意しました。でも、「そもそも幸せって何だったっけな?」と思い、ふと『幸せ』という言葉を検索してみたのです。「世界一幸せな国はどこか」「ホモ・サピエンスとは何か」「幸せホルモンとはどう出るのか」──。

人間そのものを根本から問い直し、そこからデンマークをはじめとする北欧型の社会や、幸福度の高い組織のあり方について学びました。単なる経営論ではなく人間の本質を勉強し直したのです。

社会善を追求することを決定づけたのが、東日本大震災だと伺いましたが…… 

ええ。世の中が混乱し、企業がコスト削減に走る時期でしたが、社員から「雇用創出で復興支援ができるのではないか」というアイデアが出てきたのです。最初は「そんなことできるのか」と半信半疑でしたが、「やらせてください」という声に背中を押されて、「本業を通じて復興支援をすることで、社会課題を解決する」と決めました。

あえて被災地である仙台に、雇用を創出するための新たな拠点を開設したのです。10人でも雇用が増えれば給料が発生し、その半分は地域に落ちる。そうやって復興に貢献しようと考えました。同時に、場所にとらわれないリモートワークの推進にもいち早く取り組みました。今でこそ当たり前に行われているリモートワークですが、2011年当時としては非常に先進的な取り組みでした。 

これが、驚くべき大成功を収めたのです。東京一極集中では採用できなかった優秀なクリエイター陣が採用できるようになり、100人規模のオフィスをつくることができました。その後、北九州にも拠点を開設しています。結果として、外注メインだった体制が内製化(※3)メインに変わり、利益率が10%まで跳ね上がり、会社の業績をV字回復させることができました。この勢いが、東証一部(※4)への上場という成果につながったのです。

「社会善を追求することが、結果的に会社の成長にもっとも弾みをつける」という事実を実体験として証明できた瞬間でした。 このとき学んだことが、現在のメンバーズの経営思想の土台になっています。かつての私は利益のために社員を犠牲にしてきたけれど、順序が逆だったのです。今の私は、「会社とは社員が幸せになるためにあってもいいのではないか」という考えを持っています。社員が幸せになるために会社があり、それが結果として経済合理性(※5)にも適うのだと確信しました。

ただ東証一部に上場するために復興支援をやったわけではありません。上場は通過点にすぎず、理想の実現に対してはまだ2〜3合目といったところ。CSV経営に向けては、まだスタートを切ったばかりでした。

※3 内製化(ないせいか):これまで外部の企業に委託(外注)していた業務を、自社の社員で行うようにすること。ノウハウの蓄積や利益率の向上につながります。 

※4 東証一部(とうしょういちぶ):当時の東京証券取引所における最上位の市場区分(現在の「プライム市場」に相当)。上場には厳しい基準があり、社会的信用の証とされていました。 

※5 経済合理性(けいざいごうりせい):経済的な観点から見て、費用に対する効果や利益が見込める、理にかなっていること。ここでは「社員の幸福度が高いほうが、結果的に優秀な人材が集まり強固な組織が作られ、会社の利益にもつながる 」という意味合いで使われています。

仙台にサテライトオフィスを創設した当時の写真

「社会貢献」を主軸に据えたことが、現在の「CSV経営」への確信につながったのですね。「直接取引」もそのときに始めたのでしょうか? 

「直接取引にこだわる」という方針自体への思いは創業時から持っていました。でも、難易度が高すぎて徹底できていませんでした。「今月は売上が厳しいから」と自分たちに言い訳をして、会社と社員を守ることを最優先し、代理店経由のお仕事が来ればありがたく受けていたのです。理想と現実の狭間で、必死にバランスを取る日々でした。

しかし、上場後の倒産危機と震災を経て、旗印を「自分たちの利益」から「CSV経営」へと切り替え、会社の思想を固め直したときに迷いが消えました。 私たちは単にWebサイトをつくる会社ではなく、「マーケティングの力で、気候変動や人口減少といった社会課題を解決する」(※6)集団になると決めたからです。

社会課題を解決するには、人々の消費行動を変える必要があります。世の中を本当に良くするには、一部の意識が高い人だけでなく、普通の人の「毎日の買い物」や「当たり前の習慣」を変える必要がありますよね。それを実現するには、誰もが知っている大手企業の商品やサービスが変わるのが一番インパクトが大きいのです。ならば、私たちがその大手企業の「下請け」ではなく「対等なパートナー」となり、ともにマーケティング戦略を練り、消費者に向き合わなければ、社会を変えることはできません。そう気づいたとき、下請け仕事では私たちの存在意義(パーパス)を果たせないことが明白になり、あらためて「直接取引」にこだわるようになったのです。つまり、直接取引は経営の主軸というより、CSVを実現するための「手段」なのです。 

人間、「会社の利益」のためなら、「まあいいか」と妥協もできます。しかし、「社会のため」という正当な理由を持った瞬間に、妥協は許されなくなります。「社会を変えるために大企業を動かす。そのためには高い信用が必要で、直接取引で成果を出し続けるしかない」。そう腹が決まったからこそ、目先の売上を捨ててでも、困難な「直接取引」をやり抜く力が、底から湧いてきたのです。

※6 当時の中期経営計画:VISION2020からのエピソード

第5章:「参加者たれ」社名に込めた主体性の力 

社名の「メンバーズ」に込めた想いについても教えてください。 

私は会社員時代に上司から「剣持君、あれまだ?」と進捗を聞かれるのが大嫌いでした。指示された瞬間に、その仕事が「自分の仕事」から「先輩の仕事の手伝い」に成り下がってしまうからです。仕事は、言われてやる「手伝い」になった瞬間につまらなくなります。だから私は、上司に聞かれる前に「今こうなってるんですけど、こっちでいこうと思ってます」と自ら提案し、「あれまだ?」を絶対に言われないようにしていました。

主体的意思決定権を持って仕事に参加すると楽しくなります。だからこそ、社員にはただ指示を待つのではなく、自らの意思で考え行動する「参加者(Members)」であってほしいという想いを社名に込めました。

その思想には、ご家族とのエピソードも関係しているそうですね。 

はい。私の次男は生まれつき肺が弱く、家族で登山に行っても、いつも最後尾でバテて、弱音ばかり吐いていました。あるとき、私は彼を「隊長」に任命して、先頭を歩かせてみたのです。すると驚くべきことが起きました。彼は「隊長」という役割を与えられた途端、一度も弱音を吐かず、生き生きと頂上まで登り切ったのです。体力が急に増えたわけではありません。また、単に「隊長」とおだてられてその気になったわけでもありません。

人間(ホモ・サピエンス)という生き物は、「自分が誰かの役に立っている」と感じたときにこそ、根本的な免疫力がもっとも高まり、最大のパワーを発揮するようにできているのです。反対に、「自分は世の中からいなくなったほうがいい(誰の役にも立っていない)」と感じることがもっともストレスになり、パワーダウンを招いてしまいます。「やらされている」のではなく、主体的に行動し「自分が誰かの役に立っている」という実感を抱くことで、人は人間としての本質的なパワーを発揮します。魔法をかけたわけではなく、人間の本質がそこにあるのです。これが「参加者(Members)たれ」という言葉の本当の意味です。人は主体性を持ち、社会や誰かの役に立っていると実感できた瞬間にこそ、驚くべき力を発揮するのです。

第6章:全員参加型経営と未来 

メンバーズならではの「全員参加型経営」という仕組みに行き着いた背景についても教えてください。

先ほどお話しした通り、社員には自らの意思で考え行動する「参加者(Members)」であってほしいという想いがあります。そこで、社員一人ひとりが主体性を持ち、経営的視点で現場の運営や目標達成に深く関わる「全員参加型経営」をメンバーズでは取り入れています。

しかし、上場に向けて頑張っている時期はほとんど機能していませんでした。転機は「プロジェクトX」で原点に立ち返ったときです。「社員の幸せ」についてやっていこうと決めて、全員参加型経営をもう一度ちゃんとやり直そうということになりました。 背景には、株主至上主義(※7)に対する強い危機感がありました。今の世の中の仕組み(株主至上主義)は、一生懸命働いている人よりも、すでにお金(株や資産)を持っている人ばかりがどんどん豊かになる構造になっています。私はその「格差が広がるばかりのゲーム」に限界を感じていました。物価が倍になったとき、給与だけで生きている人は生活が苦しくなりますが、株式や土地などの資産を持っている人は、資産が2倍、3倍と増え、そこでガバッと格差が開く構造になっています。この格差を目の当たりにし、究極的には「全員が資本家になるしかない」と結論づけました。国全体でやるのは難しくても、会社ならできるはずです。 

そこで参考にしたのが、幸福度ランキングで常に上位にいるデンマークなどの北欧諸国です。国民は税金が高くても、「全員が労働に参加し、自分たちで福祉国家を支えている」という参加意識と安心感を持っています。私は、会社も同じであるべきだと考えました。社員がただの「労働力(コスト)」として扱われるのではなく、全員が「株主(資本家)」になり、会社の成長が自分の資産形成に直結する仕組みをつくるべきだと考えたのです。会社は社員のものであり、社員が経営に参加し、その果実を分かち合うのです。

この「北欧型の社会モデル」のような会社こそが、格差を生まない「理想の資本主義」なのではないか。そして社員を幸せにし、永続的に成長できる組織なのではないかと感じました。この「参加者が主体性を発揮する」という思想が経営システムとして結実したのが「コ・オウンド・カンパニー(※8)」です。私の中では、この構想には「社員が主体的意識を持って働くことと、社員全員が実際に株主となり会社を所有すること」という意味合いが込められています。 だからこそ、私たちは社員全員が株主となる「コ・オウンド・カンパニー」を「目指す姿」に掲げています。現在もその理想の実現に向けた挑戦の途中段階にはありますが、これからもこの仕組みを追求していきたいと思っています。

※7 株主至上主義:企業は株主の利益を最大化するために存在し、利益を生み出すことが最優先されるという経済の考え方。 

※8 コ・オウンド・カンパニー(Co-owned Company):社員一人ひとりが会社の株式を持ち、全員で会社を所有し、経営に参加する組織のあり方。

第7章:就職活動とは「思想選び」である 

ありがとうございます。まさに波乱万丈のお話でしたが、すべてが今のメンバーズのカルチャーにつながっていることがよくわかりました。最後に、これから社会に出る学生へメッセージをお願いします。 

会社選びは、「思想選び」とも言えるのではないでしょうか。これからAI化が進むと、人間がやらなければならない作業は減り、労働は「生活のため」から「自己実現」や「社会参加」に近いものへ形を変えていくと考えています。だからこそ、ただお金を稼ぐためではなく、「どんな思想に共感するか」「どんな未来を創りたいか」という基準での会社選びが重要になります。 皆さんもぜひ、「どういう自分になりたいか」「どんな社会を創りたいか」「自分がどんな存在でいたいか」という軸を持ってみてください。そして、その人生を自分のためだけに使うのではなく、「未来に残したい社会」を創るために使ってほしいのです。誰かが作ったレールに乗るのではなく、自分たちが参加して社会や会社を創っていくのです。そんな「参加者(Members)」としての人生を歩んでほしいと思います。

 メンバーズの思想に心から共感できる人にこそ、ぜひ仲間になってほしいです。逆に言えば、共感できない人には来てもらわなくて構わない、とすら思っています。思想に合わない環境では、お互いにとって良いことがありませんから。自分がどんな思想に共鳴するかを真剣に問い、その答えに正直にしたがって会社を選んでほしいのです。

編集後記 

AIが単純労働を淘汰し、労働のあり方そのものを根本から変えていく、これからの時代。「どこで働くか」以上に、「何を信じ、どう生きるか」が問われることになります。就職活動は、まさにその第一歩となる人生の「思想選び」と言っても過言ではありません。剣持さんの語る思想に、心を揺さぶられた方も多いはずです。自らの手でより良い未来を創りたいと願うなら、新たな扉を叩いてみませんか。誰かが用意した正解を探すのではなく、世界を良くするための「参加者(Members)」として。本気で社会と向き合う挑戦者にとって、メンバーズは自らの力を発揮できる良いフィールドとなるかもしれません。