Webに関心がない美大生が、Webデザイナーに。UXの魅力に気付いたのはExcel・・・?

加藤志保
2016年新卒入社
Webサイト構築/UXデザイン

最近では、美大出身者の就職先としてWebやデジタル関連の企業が挙がってくることも増えてきました。実際にメンバーズでも、数多くの美大出身者がデザイナーとして活躍しています。

とはいえ、まだまだ美大出身者の中には、就活においてWeb業界を志望する人は相対的に少なく、キャリアイメージがつかめない人も多いはず。そこで今回は、メンバーズで活躍する加藤志保さんに、大学時代から働き始めての経験や考え方の変化などを語っていただきました。

現在の仕事内容を教えてください

普段の業務では、運用よりも構築をメインとしています。現部署は特定のお客さまを抱えているわけではなく、部署横断で様々な相談が来ますが、今は大手家電メーカーさまや大手のECサイトさまを担当することが多いです。

既存のお客様が新規サイトやサービスなどを構築するプロジェクトに参加することが多いですが、新規のご提案に携わることもあります。

新規提案の関わり方はケースバイケースですが、ディレクターが具体的な提案・企画を考えるところから一緒になって考えることもあります。UX視点での分析やユーザー調査などを行ない、施策自体を一緒に考えるケースも多いです。アウトプットとしては、企画に落ちてくることもありますし、ビジュアルデザインを作ることもあり様々ですね。

実際に作るクリエイティブとしては、バナーなどが多いのですか

バナーのような小さなクリエイティブもありますが、最近はサービスやサイト全体の構造であったり、デザインとしての見せ方、施策を含めた体験などからデザインすることが多いです。

具体的なフローとしては、まずモックをつくって、エンジニアと相談しながら形に落としていき、その後のガイドラインまで整備します。モックのみ作る場合や、企画やサイト構造の設計のみを行う場合もありますが、ユーザーの動きなどを考えて体験をつくり込んだり、運用フェーズを想定しながらルールを定めていくような仕事もあります。

美大で学んでいた時は、具体的に何を専攻されていましたか

女子美術大学のアート・デザイン表現学科メディア表現領域という学科で、メディアアートを専攻していました。1・2年生の時は広く浅く学んでおり、CG系の表現やイラレ、映像のエフェクト、音楽の打ち込みまでデジタル系のクリエイティブにかかわるものに一通り触れていました。

3・4年生になると個人の興味・関心分野に進んでいきますが、私はインタラクティブ・アートを学んでいました。鑑賞者の動きや触覚によって、立体物や映像などが動いたり反応する参加型のインスタレーションをつくっていました。

Webとはあまり関係ないことをやっていたんですね

そうですね、Webのことは全く学んでいませんでした。1・2年生の頃に、授業で少しだけHTMLの基本や、Webデザインと紙の違いなどを学びましたが、あまり関心はなかったです。

美大だと機材や施設も揃っているので、派手なものをつくりたいという気持ちが大きかったですね(笑)当時は、PCの中で完結してしまうものに、あまり興味が持てませんでした。

Webにあまり関心がなかったところから、なぜ就職の選択肢に入ったんですか

大学時代に「いまの自分のやっていることを職業にするならば、何だろう?」と考えた時に、広告業界などで企画やアート・ディレクションに携わる方向性と、実際に人が触るものをつくる方向性があると思いました。

そうした中で、それまでWeb業界は頭になかったのですが、デジタルは私たちの生活に一番近いインタラクションだということに気付き、関心を持ち始めました。また、メンバーズであれば、お客さまと直接やりとりしながら企画やものづくりができることが分かったことも大きいです。

そこで、就活では広告代理店やWeb関連の企業など、クライアントと直接やり取りをすることができる企業を中心に受けていきました。

最終的にメンバーズを入社したのはなぜですか

最初は、インタラクティブ・アートを手掛けているような企業も受けていましたが、エンジニアリングが重視されることが多かったため、1-2社見たタイミングで、自分とはスキルや関心などが異なると思い、広告やWebに絞りました。

自分が受けていた広告関連の企業は、紙のデザインをやりたい人を重視していたため、自分はそこにこだわりが無かった点と、今後すべての媒体がデジタル化していく点を考えて、デジタルに絞ってキャリアを積んでいこうと決めて、最終的にメンバーズに着地しました。

学生の頃からWebに関心を持っていたというより、就活をしていく中で少しずつ業界やデジタル全般に関心を持ったイメージです。

最初に担当した仕事は、学生の頃に想像していた通りでしたか

一番初めの仕事は、Webサイトの運用を行なう案件で、バナーやページ内の画像を制作したことです。最初はWebデザインの作法や考え方も何も分からなかったため、まずは運用で使う画像を制作したり、毎月同じページが更新される箇所のデザイン部分を担当する仕事からスタートしました。

最初の配属はWebサイトの構築を担当する部署だったので、そこから少しずつ構築のお仕事も手掛けるようになりましたね。

私は、それまでWebデザインをまともに手掛けたこともなければ、エンジニアやディレクターなどと共同で作業した経験もなかったので、そうした仕事を通じて、制作のルールや手法を知ることができたのは良かったです。その意味では、入社前のイメージともギャップはなかったですね。

学生時代に学んでいたことで、業務に活きていることがあれば教えてください

大学時代の専攻と現在の仕事は離れていますが、制作面と考え方の面との大きく2つで活きています。

まず制作について、レイアウトや表現方法、グラフィックに関しての基本的な知識は、そのまま重要になります。こうした知識は、アートをつくる上でも、立体物をつくる上でもついて回りますし、使用するソフトも一緒だからこそ、前提となる知識を把握していることは重要でした。

また、学生の頃は、「使う人がいてこそのデザインだよ」と教わることもありましたが、やはり自分の好きなように制作している側面も多かったですね。ただ、その経験があったからこそ、自分の好きなものや良いと思うデザインが、「なぜ良いと思うのか?」を考えるようになりました。時間や予算に余裕がある状態で、数多くの作品をつくり、自分の好きなものを感覚的にわかるようになったことで、「バランスの良い作品ってなんだろう?」や「センスの良いものってなんだろう?」を考え、「これは良い・悪い」などの感覚を養いました。

制作において感覚的な引き出しが数多くあることは重要ですが、これらは学生時代に培った重要な経験だと思います。

考え方については、例えばUXにおいては、大学の一般教養の授業で学んだ心理学や造形学、色彩学に関する知識が活きてきますし、インタラクティブ・アートを手掛けていた際に、ユーザーが触ったりアクションすることを考えながら制作した経験は、そのまま受け継がれていますね。

当時は、感覚的に制作していても、「なんで、これをつくっているんだっけ?」と必ず立ち止まっていました。また教授から造形の意味を問われたり、制作の意味をプレゼンテーションする機会もありました。その結果として、作品の理論的な位置づけを考えたり、「この作品は、何のため、誰のために作り、そして受け手にどうしてほしいのか」ということを言語化する機会も数多くありました。

こうした経験によって、造り手・使い手各々の思考や体験を同時に考えることの重要性を認識しましたが、これらは現在の仕事でも重要になっています。

仕事に活きてくるとは、学生の頃は思っていなかったですよね

そうですね、私は全然想像がついていなかったです。美大に入った頃は、「絵を書くのが好き」というシンプルな想いが強かったですし、事務的な仕事や営業などは自分に向いていないので、将来的には、自分の特技や好きなことが活かせる仕事に就きたいと思っていたくらいでした。

ただ、もう少し目指せる目標がほしいなと思った時、自分はCDのジャケットが好きだったので、将来の仕事として広告代理店が漠然とした選択肢に入ってくるようになりました。だから正直なところ、最終的に就活でWeb業界を選んだことは意外でしたし、Webの面白さを実感するのは、2-3年くらい経ってからでした。

特に、UI/UXに携わるようになり、ふと「インターフェースとは何だろう?」ということを考え始めてからです。例えば、業務の中で多くの人はExcelを使いますが、そこでつくられた資料は、人によって見やすさが大きく変わります。日頃使うものですが、少しの違いで大きな差が出ることを実感した時、ユーザーが何気なく触れるデザインをつくることの面白さに気付いたんです。

それまでは、アプリや目立つ企画、LP(ランディング・ページ)にやりがいを感じていましたが、そこからはユーザーが何気なく使うアプリケーションについても、より良いものをつくりたいと強く感じるようになりました。

例えば椅子や家電をデザインする時は、奇抜なものばかりが求められるわけではなく、日常で使うものだからこそ、シンプルであっても凄く考え込まれています。その思想がWeb領域のデザインにも求められると思いますし、何気なく触れるプロダクトに興味がある人は、Webが向いていると思いますね。

ありがとうございます、では最後に学生の皆さんにメッセージをお願いします!

Webやアプリなどのデジタル領域は、いま一番面白く、携わるべき仕事だと思います。気付きづらい存在かもしれませんが、最も日常に密着しており、私たちの生活を支える、最もやりがいある仕事だと思っています。

特に美大でグラフィックを学んでいる人にとっては、デジタル業界との相性が良いはずですが、どの学科にいたとしても、いま学んでいる考え方が活きてくると思います。Webの制作に触れたことがない人でも、怖がらずに興味を持ってほしいです。

美大で学んでいる人は、感覚で作品を生み出しているイメージを持たれがちですし、自分自身もその意識が強い人がいるかもしれません。しかし美大出身者だからこそ持っているビジネス的な視点や、ユーザーに対する考え方は必ずあります。

デザイナーは「こう見せることで、ユーザーの行動はこんなにも変わる」ことを想像しながら制作します。それは目に見える部分は当然ですが、情報設計など表からは見えづらい部分も含まれます。そこで必要となる視点やユーザーへの洞察は、美術を通じて自然に身についている部分もあるはずです。そうした経験は社会に出てからも誇れるはずなので、ぜひ自信を持って社会人になってください。