「競争社会を脱して、自他の幸せのために働こう」――メンバーズ2代目社長・髙野明彦が語る、優等生からの脱却とAI時代の自己実現

キャリア

新卒で金融業界に就職し、一見順調なキャリアを歩んでいた髙野さんは、なぜ当時ベンチャー企業だったメンバーズに飛び込んだのでしょうか。そこには、競争社会への疑問や社会貢献への強い想いがありました。倒産危機を救った全社プロジェクト、経営方針の大きな転換、そして「自分のビジョンを持つ大切さ」を学んだ下積み時代。 「人間は他人の幸せを自分の幸せとして感じる」――。 今回は入社2年目の若手社員がインタビュアーとなり、「人生の一先輩」としての飾らない言葉から、これからのAI時代における働き方を紐解いていきます。

髙野 明彦(たかの あきひこ)
株式会社メンバーズ代表取締役社長。
2005年メンバーズ入社。2006年11月の株式公開を始めとし、リーマンショック後の全社変革プロジェクト、人事制度改革、中期経営計画の策定・実行、ミッション・ビジョンの策定・浸透プロジェクト、働き方改革、東証一部上場など全社的な重要プロジェクトの推進を数多く担う。2011年執行役、2016年に常務執行役員、2018年に取締役就任。2023年4月より現職。趣味:読書、庭いじり

今回のインタビューでは、会社としての「公式見解」ではなく、髙野さん個人の思いや内面をぜひ伺えればと思っています。よろしくおねがいします。 

そうですね。以前は「社長という役割」を全うしようとするあまり、どこか自分の言葉をきれいに整えすぎていた部分がありました。ですが最近では、一人の人間として「自分の本音を喋る」ことで、より自分らしさが出るようになったと感じているんです。今日は本音でお話ししましょう!

まずはじめに、金融業界から、なぜ当時ベンチャーだったメンバーズへ転職したのですか?安定を捨てるのは相当勇気がいりませんでしたか? 

前職では、周りに優秀なビジネスエリートたちがたくさんいました。でも、彼らはずっと「偏差値競争」や「出世競争」をさせられているように見えたんです。ストレスフルな環境で、周囲の人たちが疲弊していたり、生き生きとしていない様子を見て、「自分の人生を組織に売るような働き方はしたくない」と強く感じていました。

また、将来的には環境問題や地域経済など、もっと公的で社会貢献的な仕事をしたいとも考えていました。そういった背景から、まずは経営人材として成長するためにベンチャーへの転職を決めたんです。ただ、面接で「何ができるの?」と聞かれても、即戦力としてできることは正直何もなかったんですよね。銀行にいたので財務は普通の人より分かっていても、ベンチャーに役立ちそうな資金調達などをしていた訳ではないので。それでも食らいつくしかなくて、最終的には開き直って「思考力と根性で、できることは何でもやります」と答えてなかば強引に入社しました(笑)。

高野さんインタビュー写真1

「競争社会は嫌だ」と思って飛び出したのに、当時のメンバーズもなかなかに激しい環境だったと聞きます。入社当時のメンバーズや、創業社長の剣持さんの印象はどのようなものでしたか?

私が入社した2005年のメンバーズはまだ100人くらいの規模の会社。上場準備中で、利益成長に向けて猛スピードで進んでいました。当時のメインの事業はWeb制作とネット広告代理店でした。労働集約型で社員一人ひとりの時間が売上の源泉だったのですが、「ネット企業らしく加速度的に成長するのだ」と、メディアやツール事業などレバレッジの効く新規事業をいくつも立ち上げていた時代ですね。そしてWeb制作部門とネット広告代理店部門がパキッと2つに分かれていました。本来なら協力してお客さまへのサービスの提供価値を高めるべきですが、役員達は自分のチームの利益を高めることばかりに必死でした。当時はまだ「会社全体で勝つ」というより「各部門がいかに数字を作るか」という経営をしていた時代だったんです。

創業者社長の剣持さんは当時40歳と若かったです。ですがパワフルでイケイケなネットベンチャー社長という感じよりは、ビジョンは語りつつも落ち着いている印象でした。カリスマ的なワンマンリーダーというよりは役員に任せるスタイルでしたね。あれこれ具体的な指示はされず、お前はどうするべきだと思うのか?どうしたいのか?と自分の意思を引き出そうとしてくれて、私としてはとてもやりやすかったです。

なかなかハードな初陣ですね(笑)。最初はどんな仕事を担当されたのですか? 

上場準備と、それに伴う内部監査の立ち上げでした。当時の肩書は社長直轄の「経営企画室・ 室長代理」です。名前はそれっぽいですが、実態はただの一般社員のポジションでした(笑)。管理部門はすでにできあがっていたし、直接利益を生み出すわけではないので、会社が存続する上では別に無くてもいい新しい部署だったんです。それでも、上場するためには社長直轄の経営企画や内部監査の仕組みを整える必要がありました。当時のCFOや監査役の方に教わりながら、地味な事務作業から他部署への調整まで、文字通りなんでも屋のような形で泥臭く実務を立ち上げていきました。

まさに、下積みからのスタートだったんですね。そんな「なんでも屋」だった髙野さんに、会社を揺るがすような大きな転機が訪れたんですよね? 

はい、2008年頃、リーマンショックの影響もあって会社が2期連続の大きな赤字を出し、倒産の危機に直面しました。正直、当時は「もう終わりかも」という絶望的な空気もありました。でも、そこから一念発起して、当時の若手マネージャークラスのメンバーと共に会社再生のプロジェクトをスタートさせました。

まず、赤字の案件からはすべて撤退しました。次に、当時のIT業界では「狂ってる」と言われるような大改革を断行したんです。裁量労働制を廃止して固定時間制にし、「残業代を全部払う。その代わり、早く帰って利益を出そう」という仕組みへ変更しました。当時のIT・ネット業界は残業も多く寝ずに働くのが当たり前の時代でしたが、みんながボロボロになって働くのはもうやめようと考えたんです。

一番の転機は経営方針の抜本的な転換でした。創業者の剣持さんが「利益成長をバラバラに競争する役員陣ではなく、これからは性格のいい経営チームを作る。」そして他人の評価を気にした経営ではなく、自分たちのありたい経営の姿として「社会への貢献」「社員の幸せ」「会社の発展」を同時に高いレベルでの実現を目指す経営指針として「超会社」を宣言したんです。利益成長だけを追うスタイルから「コアバリュー(価値観)経営」、「CSV(共有価値の創造)経営」へ大きく舵を切ったことが、今のメンバーズのカルチャーの土台になっています。

元々「経営人材として成長する」ためにベンチャーへの転職を目指した髙野さんがメンバーズに長く留まり続けられたのは、会社が価値観ベースの経営に舵を切ったからでしょうか? 

私がメンバーズに長く留まっている理由としてまずは、剣持さんがワンマンリーダータイプではなかったところが大きいです。おかげで自主的に動いて良い経験を積むことができ、結果として自分が目指していたキャリアを実現できました。また、メンバーズが社会貢献的な仕事を目指す会社になったことも大きな理由です。自分が持つスキルを活かしてメンバーズを大成功させることが最も社会の役に立てる道だと考えるようになり、他へ行く理由がなくなりました。

その中で「社長を継ぐ」という意識が芽生えたのには、どんなきっかけがあったのでしょうか? 

以前は会社員は「会社のミッションやビジョンのために働くもの」だと思っていました。でも、あるマネージャー向けの研修で「自分のビジョンを掲げて組織を運営してよい」と言われ、ハッとしました。リーダーのビジョンに全員を従わせるピラミッド型の組織よりも、一人ひとりが自分のやりたいビジョンを持って仕事をしたほうが圧倒的に楽しいですよね。そしてそのパワーが結集した方が組織としても力強いんです。

さらに、入社して10年ほど経った頃。会社の成長が鈍って悩んでいた時のことです。メンバーズの創立20周年記念パーティでお会いしたOBから「髙野さんは社長になろうと思わなきゃダメだ」と言われました。自分は経営企画や人事という与えられた枠の中だけで物事を考えていたと気づき、そこから「自分が社長だったらどうするか」と自分自身のビジョンを持つようになりました。ここで一気に発想が広がり、自分の意志で初めて企業買収をしたのもこの頃です。

会社を2代目が引き継ぐ時というのは、創業者が我慢できずに戻ってきてしまうケースが多くリスキーと言われます。それでも、剣持さんが作ってくれた全員参加型経営のカルチャーやCSV経営を今度は自分がさらに進化させていく番だ、と覚悟が決まりました。

そうして引き継いだ髙野さんのリーダー像って、どんなものですか?

 「俺のビジョンについてこい」と全員を引っ張るような、トップダウン型のリーダーではありませんね。

与えられた役割を「組織だから仕方ない」とこなすだけでは、人間の力は7割程度しか発揮されません。一人ひとりが自分の想いや願望に従って100%の力を発揮してこそ、結果的に会社として大きな成果を実現できると信じています。

社長としての私の最大の役割は、社員一人ひとりの「やりたいこと」の背中を押すことです。みんなが楽しく、幸せに働ける環境を作ることが私の仕事だと思っています。

高野さんインタビュー写真2

今の髙野さんが理想としている組織って、具体的にどんなイメージなんですか?

一言でいえば「自分らしさを実現できる場所」ですね 。前職での経験から、競争がもたらすストレスや不満は大きいと感じていました。ですから私が目指すメンバーズのあり方は、競争社会ではなく、多様性、共創、自己実現を重視し、そのような人々が幸せに働くための環境を提供する場です。メンバーズが、競争社会とは違う価値観を持つ人々にとっての「自分らしさ」や「自己実現」を追求できる場でありたいと強く考えており、今もまさに社員のキャリア設計に向けて構想しているところです。

「自分らしさ」の追及……いいですね。ただ、現実的には会社である以上、自分らしさよりも会社の決まった制度の中で「評価」ってされるじゃないですか。ぶっちゃけ、どんな人がメンバーズで生き生きと長く働けるんでしょうか?

社内の評価を過度に気にしない人ですね。メンバーズで長く活躍している人の多くは、会社や上司に評価されることを目指して働いているわけではありません。純粋に仕事に楽しみを見出し、新しいことへの挑戦や自己実現に夢中になれる人たちです。ピラミッド型の組織で上からの指示に従うのではなく、一人ひとりが自分の想いやビジョンを持って動くことが大切です。それが掛け合わさることで成長していけるような組織でありたいと思っています。

実際に、社員の「想い」がビジネスに直結した例はありますか? 

あるチームが、お客さまから頼まれたわけではないのに、自主的な「ペーパーレス化」の提案をしました。「この無駄な書類文化をやめたい、ペーパーレスにしたほうが脱炭素だしハッピーに働ける」という自分たちの想いが起点となって、顧客のルールまで変えるような提案を行ったんです。

普通なら「余計なことをするな」と言われそうですが、その熱意はお客さまにも伝わりました。最終的にそのクライアントは、別の予算を縮小してでも、私たちの提案を実行するための投資予算を捻出してくれました。現場の社員の「想い」が、変わることに不安を抱えていたお客さまをも動かしたんです。これが私たちの目指す「想いから始まる仕事」です。

ここまでは髙野さんのキャリアを振り返ってきましたが、これからの未来についても聞かせてください。今、AIがすごい勢いで進化していますがこれからのAI時代、私たちの仕事はどう変わっていくと考えていますか? 

最近、私の中で「AI」と「自己実現」、そして「ビジネスを通じて社会を変えていくこと」が完全に繋がった感覚があります。AIは論理的な答えを出したり、作業を自動的に実行してくれたりする超最強の武器です。そうなると、これからの人間がやるべきことは、作業そのものではなく「AIという道具を使って、誰を幸せにするのか」を意思決定することです。人間は「AIのマネージャー」になるとも言われていますね。つまり人間の仕事は、「このプロダクトで誰を幸せにしたいのか」「社会のどんな課題を解決したいのか」という、目的やゴール、つまり願望を設定することそのものになっていくわけです。

これまでは単なる「売上アップ」が仕事の目的になりがちで、作業に追われるのが仕事でした。ですがAIという武器を使えば、「地方経済の衰退をどうにかしたい」「気候変動を解決したい」といった自分自身の心の中にある「想い」をビジネスに込めやすくなります。一人ひとりの願望を起点にAIを使い倒せば、社会を変えていくスピードは圧倒的に加速します。

言われた作業をこなすだけの指示待ちではAIに負けてしまいます。でも、「自分はこうしたい!」というエネルギーを持っている人にとっては、これほど心強いチャンスはありません。自分の想い一つで社会を動かせる、そんな最高に面白い時代が来ているんですよ。

メンバーズの目指す未来と、社会への貢献についてどのように考えていますか? 

私はメンバーズを1万人規模まで成長させ、その成功を通じて社会に貢献することを目指しています。特に、気候変動や人口減少といった社会課題に対して、日本人が豊かさを保ちながら生産性高く働ける社会。そして誠実に対処する社会を10年ほどで実現したいという強い願望を持っています。メンバーズがビジネス面、そして社員の幸せ面でも成功することで、世の中にポジティブな実績を示し、より良い社会への変化を促していきたいと考えています。

最後に、これから社会に出る学生へ人生の「一先輩」としてメッセージをお願いします!

最初から「大きな社会課題の解決」や「会社の利益」といった立派なことを考えなくても構いません。例えば「地元の農業が心配だから持続的に働けるようにしたい」といった自分の身近な願望からでいいんです。

実は人間は社会的な動物なので、本能的に「仲間のために働くこと」で幸せを感じるようにできています。相手に「いつも頑張ってくれてありがとう」と感謝し、他者の幸せを願ってみてください。すると、脳にとってはそれが「自分の幸せ」と同じこととして認識され、自分自身も幸せになるようにできています。逆に、自分だけの利益を追い求めているうちは幸せになれません。

AIという最強の武器を使いこなしながら、まずは自分の身近な願望を大切にしてほしいです。そしてそれが他者の幸せに繋がるような利他的な視点を持って、大いに働いてほしいと思います。