【面接官コラム 第1回】取締役 兼 専務執行役員 高野明彦~大企業とベンチャー、どっちがより成長できるのか?~

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自己紹介

皆さま、初めまして。社内では血が青いとかインテリやくざとか呼ばれていますが、自分では知的体育会系のつもりの経営企画担当役員高野です。新卒採用では最終面接を担当しています。多くの学生と面接をしていると少なからず共通して皆さんに正しく知ってほしいと思うことがあるのでこんなコラムを書くことにしました。もし表現が厳しいとか冷たいとか感じたらそれは血が青いせいなのですみません。

新卒で大企業?ベンチャー?

さて初回のテーマは大企業とベンチャー、どっちがより成長できるのか?です。
「ベンチャーの方がより成長できるのでベンチャーを志望しています!」と話す学生が少なからずいますが本当でしょうか?
答えから先に言うと、
どっちでも十分に成長できます(但し、主体性のある人間に限る)。成長の方向性は違います。
が正解です。
そもそも「大企業とベンチャー、どっちがより成長できるのか?」という問いがあまり良くないですね(自分で書いておきながら)。自分の成長が所属する組織によるという考え方が環境依存的な思考であまりよろしくない。そういう発言を聞くとこの人は主体的に学べる人だろうか?と不安になります。
もう少し説明します。

大企業は学ぶことの宝庫

私は新卒でメガバンク(の前身の銀行)に入りました。周囲には同期にも先輩にも上司にも尊敬すべき優秀な人たちがたくさんいました。優秀な上司・先輩がいるというだけで大企業でも当たり前に成長できることは証明されそうですが(その人たちは新卒で入って成長してそうなっているはずですので)、同期達も互いの成長に日々刺激を受け切磋琢磨していました。研修制度やメンター制度などの教育制度が充実しているのは当たり前です。そして大企業では世の中に大きな影響力のある大きな仕事を多くの優秀なスタッフが集まって仕事をしているため高い専門スキルが身につけることができます(※元来、ゼネラリスト志向でローテーションの多い大企業も、近年はビジネスの専門性の細分化の流れが強まっている中で、専門性志向が高まっていると考えています)。一方で大規模に効率よく製造・販売を行っていますので、受身で仕事をしているだけだとオペレーショナルな仕事になってその会社でしか通用しないスキルしか身に付かないなんてことにもなり得ると思います。
また別の側面から見ると大企業にはシステムとして事業のノウハウや組織運営のノウハウが埋め込まれているとも言えます。大企業は事業を成功させ、大規模な組織を効果的に作り上げ、運営し、成長し、競争を勝ち抜いてきたからこそ今大企業になっているのだから当たり前です。ゼロから作り上げなくても成功のノウハウ・実例が一杯そこにあるわけです。つまり前述の優秀な上司・先輩も含め大企業は学ぶことの宝庫です。

ベンチャー=生命力・商売する力

一方、ベンチャーで身に着けることができるのは生命力です。生命力とは自分で稼ぐ力、どこでも成果を上げられる力です。ベンチャーと大企業との差を表すにはこの言葉が最もしっくり来ます。ベンチャーでは若いうちから責任のある大きな仕事を任せられるとよく言いますが、あながち間違ってもいないと思いますが関わっている仕事の大きさで言ったら大企業の方が大きくその意味で重要な責任を負っているとも言えます(これもまたそういう意識を持てるかどうかは主体性の問題です)。従ってもう少し正確に言うとベンチャーでは一人で商売・仕事を完結させる経験が早く多く得られるということだと思います。
ベンチャーでは仕事の大小はあれど自分一人で完結する仕事が多い。役割分担なんてあまりなく仕事を取ってきたらその仕事を遂行するのは自分。成長スピードや企業体力のバランスで基本的に常に人手不足なので、先輩のサポートからスタートするわけでもなく新卒もすぐに個人の担当範囲が振り分けられる。指導担当と一緒にとか誰かのバックアップなんて期待できず、いわゆる放置プレー状態となることもよくあることでしょう。もちろん聞けば教えてくれるのでしょうが、聞かないと教えてくれない、みんな忙しそうで聞きにくいなんてことはよく聞く話です。また、そもそも社内に前例のない仕事も多いので、社内に答えがないことも普通で、無駄な努力、無駄な失敗もたくさんあります。

こういう環境に不満を言うのではなく、そんな中でも目標を達成するため、顧客の期待に応えるためにもがき、自分でひたすら調べ勉強し、どうにか先輩・上司を捕まえて、よく分からないなりに社内やパートナーを調整し、顧客に商品・サービスを提供するという経験の中で、ビジネスに必要な生命力が身につくのだろうと思います。生命力をもう少し分解すると特徴的なのは顧客志向、成果志向と対人スキル(関係構築力、リーダーシップなど)ということになると思います。
もちろん、これらが大企業では身につかないとか、ベンチャーに入れば必ず身につくというわけでもありません。ベンチャーに入ったとしても、上司に言われるがままに作業しているだけとか、ここから先は上司の仕事とか自分の専門領域ではないと考えていたりすれば、あまり大きな成長は期待できないでしょう。やはりどこまで自分ごとで仕事に取り組めるか、主体性の問題に帰着します。

成長と企業選び

結局結論としては、主体性がありさえすれば大企業であろうともベンチャーであろうとも本人の意識と努力しだいで大きな成長ができるのですが、その成長の方向性・中身が違うということです。では、大企業で得られる専門性や過去の成功事例とベンチャーで得られる生命力と、どちらがこの先のビジネス環境において有用でしょうか。採用に関わっているベンチャー企業役員としてのポジショントークを含めて言えば、もちろん生命力です。なぜならば技術進化などビジネスの環境変化のスピードが非常に速く、不確実性がとても高い、更に言えば論理的に答えの出しやすいことがどんどんAIや海外へのアウトソーシングに置き換わっていく、そのような今のビジネス環境において必要とされるのはテクニカルスキルよりもヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルだと考えられるからです。

と、ここまで言いながらも、長いビジネス人生において最初のキャリアとして大企業かベンチャーかを選ぶかにおいて、得られる成長内容が論点になるかどうかはその人の目指すキャリアが明確になっているかどうかによります。ここで言うキャリアとは、職業人としてのスキルや経験、ポジションなどだけでなく、自分がどの分野でどのようなことにどう貢献をしたいのか、何を成し遂げたいのかということまでを含みます。新卒でそこまで明確になっている人は多くないと思いますし、仮にイメージがあったとしてもそれは職業人生の中で変化があると思いますし、それでいいと思っています。逆にそれが大して明確になってもいないのに自己の成長という軸で企業選びをするという行動・考え方は、当人のキャリアにとって害悪ですらあると思います。
では、どのように企業選びをするべきなのか、それはまた次回に書きたいと思います。